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「津田雅美コマ割り研究序説」に寄せて/「ページの輪切り」論

 先日紹介した、文学フリマ発行の同人誌『少女漫画を語る本 Girls' Comic At Our Best! vol.04』ですが、無事入手できましたので、紫呉屋さんの「津田雅美コマ割り研究序説」に絡めてちょっとぼくなりに語ってみたいと思います。


 さて、紫呉さんの記事そのものは、グラフや表などを駆使して「漫画のコマ割りのデータ的計測/分析」の面白さ(可能性)を説いたものでした。
 そんな本筋の主張からは外れるのですが、とにかく「ページまたぎ」という、1ページ単位で「割る」のではなく、「見開き全体を用いたコマ割り」が多い津田雅美の作風について私見を述べてみます。

津田雅美と「コマの輪切り」

 結論を一言で言えば、津田漫画の特徴は「コマの折り返しが排除されるコマ割り」がされているということです。
 いわゆる視線誘導が、「S字」を描かずに読めるということが、独特の読書感に繋がっています。

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 要するに、見開きをこういう↑風に割って、ジグザグに視線誘導させるのが、普通のコマ割り。


 津田雅美は、それをこう↓します。

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 あるいは、こう。

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 この違いは何か? というと、コマをジグザグに折り返さずに、なるべく一直線の視線移動で「読める」形に近付いている、ということです。


 コマの「割り方」を、包丁の入れ方で喩えてみましょう。
 普通のコマ割りは、文字通りの「コマ切り」。包丁を縦横に入れて分割します。
 反して津田雅美は、ページを「輪切り」にして出すことが多い、ということです。包丁を、縦か横にしか入れない。そして当然、ひとつも切れ目を入れない「見開き絵」で出すこともあります。


 これは漫画文法の「基本的なお約束」のひとつを壊しているとも言えて、前衛的というよりむしろ原点的と呼んだ方がいいかもしれないスタイルです。
 ジグザグにコマを折り返さないということは、漫画というよりも「フィルム」や「巻物」に近くなるということですから。


 しかし「ジグザクに読まなくてもいい」というのは、「ややこしい漫画文法」から解放されることにも繋がります。
 それでいて、単にただ「読みやすいだけの漫画」に収まるわけじゃなく、俳句のような奥深さ/趣深さを備えているというのは、すでに周知の通りでしょう


 以上、「コマの折り返しの排除」というのも、コマ割り論のキーワードとして注目してみよう、という話でした。
 輪切りのコマ割りと、普通のコマ割りを読み比べてみた時に、「コマの読み方」はどう変わると思いますか? というお話です。