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シンデレラは「分不相応に」ではなく「相応しいから」なるもの/宮成楽『晴れのちシンデレラ』

 たまには、軽い萌え漫画も読んでみなければなーと思って(色々頭が疲れていたせいでもありますが)、『お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!』と『森田さんは無口』と『晴れのちシンデレラ』の1巻をそれぞれ買ってみました。


 結論から言うと『晴れのちシンデレラ』がひじょうに自分好みで、幸せになれました。

超庶民派お嬢様のハラハラギャップ生活 せっかく履けたガラスの靴が重いんです・・・ 

お嬢様高校きっての才媛・春姫こと春日晴さんには、人には言えないお悩みがあるのです・・・・・・!?

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宮成 楽

竹書房 2008-11-27
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  • 表紙はパッと見が学エヴァのアスカっぽいのでツンキャラなのかなーと釣られますが、中身を読んでみると、むしろ明るい笑顔がいいヒロインです


 タイトルにシンデレラと入っているのが絶妙で、これは「分不相応」な立場を手に入れてそれを演じようとする物語ではなく……、「しかるべき資格によって本来の相応しい役割に収まっていく」物語なんですね。


 『シンデレラ』という童話は、ともすれば「女の子は誰でもお姫様になれる」というファンタジーを描いた物語として受け取られることもあると思うけど、実はシンデレラは「継母と連れ子によって不当な仕打ちを受けている」だけであって、家柄や血筋も義姉たちよりずっと正当、かつスペック的には他を圧倒する美少女なのだから、王子様に見初められるのは「分不相応」どころか「しかるべき資格に相応しい」結末だったと言えるわけです。


 つまり、どうしようもない運命やカベに逆らって天元突破するサクセス・ストーリーとかじゃなく、ただ単に「元からある資格をまっとうする」物語がシンデレラ・ストーリーの本質なのだ。


 この、「しかるべき資格に応じた報酬を得る」物語としての「シンデレラ・ストーリー」は、「みにくいアヒルの子」の類型として考えるとより一層はっきりとします。

身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: 物語の「白鳥キャラ」と「アヒルキャラ」

 みにくいアヒルの子はもともと白鳥で、それが本質を露出させていったのであって、決してアヒルが白鳥に化けることができるという話ではない。
(中略)
 白鳥の子は最初から自分自身で在ることだけで既にアヒルに対する優位を内包していた。
 あとは運命のかけてくる負荷を受けきれるかどうかの戦いだけだったのだ。


 これが棚からぼた餅式のラッキーチャンスによって得たサクセスなら、それは一度「相応しくないもの」として返上するか、もう一度「自分だけの力で取り返す」努力をしなければならない。
 少年漫画や幻想文学において、「偶然手に入ったスーパーパワー」(こういうタナボタを総称して「偶然のギフト」と呼びます)は一度失うか、実力で取り返す必要があるというのと同じドラマトゥルギーです。


 そして『晴れのちシンデレラ』のヒロインは「シンデレラ」なので、彼女が手に入れた「お嬢様学校きっての才媛」という立場は「不相応なギフト」などではなく……、「彼女自身の資格に見合った役割」のように映ります。
 ……と言っても、どうも「祖父が油田をたまたま掘り当てたから金持ちになれた」というだけみたいなので、家柄や血筋の設定があるわけではないのですが……、人間としての彼女は実力と天然で「お嬢様」の扱いを受けていく。だからどうも「一度は返上しなければならないギフト」というより「持っていて当然の資格」という感じに見えるんですね。


 そしてヒロイン自身は、温室培養された「かよわいお嬢様」こそを「本物」だと思い込んでいて、自分もそのように演じようとするのだけど、むしろ「温室育ちのお嬢様たち」にとっては、人並以上に優秀なヒロインこそが「本物」に見えてしまう。


(つまりヒロインの考えている「本物」というのは「ステレオタイプ」のことで、まわりのお嬢様たちの考える「本物」というのは「ジュニイン/正真正銘」の意味なんでしょう。)


 そんな話な(んだとぼくは思った)ので、序盤は


「元貧乏人が、お嬢様のフリをする苦労を描いたコメディ」


として見えていたのが、徐々に


「本物のお嬢様が、極貧時代のトラウマに悩むコメディ」


……という逆転した印象で読めるようになってくのが面白かったです。


 実際、コメディのパターンも「貧乏人だということがバレないようにハラハラする」という(偽装生活モノにありがちな)パターンよりも、「何をやっても結果的に“本物のお嬢様”として人望を集めていく」パターンにどんどんシフトしていくんですよね。


 いや、いわゆる萌え四コマでも、「自分が読みたいモノ」に合っていればこれだけ良いモノが読めるんだなと、認識を改めたものです。
 作者さまに感謝しての感想でした。