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【研究用メモ】続・言葉にできない「読む」という行為

 個人的な執筆用のメモが続いてすみません。
 この問題は色んな方に相談に乗っていただいたりもしてまして、ご興味のある方もおられるのではないかと思います。

 とりあえず黒川伊保子さんの『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』を読み返していたら、「ヒトの脳は、文字列を見ただけでも、その文字列の音を聞いたように聴覚野が活性化することが分かっている。」(p33)という記述がヒント的だったので、ああそういえばそういう話もあったな、と「文字列」「聴覚野」でググってみる。


 まず目に入ったのがNHKスペシャルの読字障害の回を紹介したページ。

【解説】39/40野と読字障害 (2008年10月13日発行) | 連鎖理論と脳、序でに時空の泡と無限後退するホムンクルス - メルマ!

番組の中で音声を聞くという処理は、
(1) 聴覚野で音声が知覚された後に音声コードに変換され、
(2) 言語野(ウェルニッケ野とブローカ野)で音声が理解される
と規定されています。
さらに文字列を読む(暗唱)という処理は、
(1) 視覚野で文字(列)が知覚され、
(2) 下側頭葉で文字(列)の形が識別された後にコード化され、
(3) 39/40野で文字列コードが音声コードに変換され、
(4) 言語野(ウェルニッケ野とブローカ野)で文字が理解される
と規定されています。
例えば「あした晴れ」という文字列を暗唱できるのは、
39/40野において「あした晴れ」という文字列コードを
「あした晴れ」という音声コードに変換できるからであるという訳です。
ここで読字障害とは、39野と40野における文字列コードから音声コードへの変換が
機能不全を起していると説明されています。

 関係無い話ですが、麻生首相が漢字の読み上げ苦手なのも、コレなんじゃーないかと言われてるらしいですね、読字障害。
 それは置いといて、「暗唱」という言葉の使い所がちょっとおかしい気が。暗唱は「暗記して読む」という意味であって、頭の中で語の音を認識することとは別ですからね。


 ちなみにちょっと思いついて「黙唱」で検索してみた……。詩集のタイトルしかヒットしない(別の意味の造語らしい)。
 じゃあ「内唱」はどうだ?
 おっ。

新ピアノの学校解説(降矢美彌子研究室)

5)内唱
  声には出さないで、頭の中でメロディーを思い浮かべて歌うことです。サイレント・シンギングともいい  ます。ハンガリーの音楽教育の方法の中で重要なものです。頭の中で実際に音が鳴っているように、音を  聴くことができるようにするために、合図によって、声を出したり、内唱したりする練習も行います。

 sirent singing で内唱か、なるほど。「歌を思い浮かべる」を指す日本語はこれでクリアでしょう。小学校の音楽の先生? によるレポートでの用例も見つかります。


 音韻化するというだけで、リズムやイントネーションについては定義に含めない「内読」(inner speech、inner readingの対訳になっているのがおそらくこれ)との区別化もこれでできるでしょう。


 余談ですが言葉的に面白いのは、ただ「silent reading」と書くと「黙読」と訳される(音韻化を必要としない行為を指す)のに対して、「sirent singing」は「内唱」という、「内読(inner speech)」と類義になる言葉に置き換えられるという点ですね。
 音楽を思い浮かべるということは必ず脳内で「音を鳴らす」ことになるので、読書のように「音韻化するかしないか」という分岐はすっとばして、必ず「音韻化するグループの言葉」である「内○」に放り込まれるということかもしれません。
 黙読の類義として「黙唱」という言葉の意味を考えた場合、「頭の中で音を鳴らさずに歌を唱う」みたいな、禅問答じみた行為も含ませることでやっと、正確に対応した類義語となるのでしょうから。