HOME : リクィド・ファイア
 移行後のはてなブログ:izumino’s note

伊集院光の『アストロ球団』語り書き起こし

 ちょっと参考用に「BSマンガ夜話」をチェックしていたら、伊集院光がいいこと言ってたので発言を書き起こすことにします。2000年3月8日の生放送。

アストロはギャグだ、と周囲が同意しあう流れの後で

伊集院「なんかみんな、すごく大人でアストロ球団に出会ってるじゃないですか。僕ね、小学五年に出会って、モロに大好きでぇ、いまだに一度も否定したことないんですよ!」
山田五郎「それもどうかと思うよ(笑)」
伊「いやいやいやいやいや! 逆にね、普通の今の、普通と言われている漫画の方が否定ですね、逆に」
大月「むしろこっちの方が正しいと?」
伊「そうそうそうそう。だって、漫画なんだから何メートルも飛んでいいし。(中略)いや、誰かが辻褄合わせろって言い出しておかしくなったんですよ漫画は、逆に言えば。漫画って多分、リアルに描けばいいもんじゃなくて、たぶん脳の中に直接訴えてくればいいわけで、なんか僕の脳の中には、なんだかわかんないんだけどスゴイっていうことがスッゴイ訴えかけてきたし。それが、なんとなく野球だし、音もすっごい、尋常じゃない音がしてるんだなっていうのが頭に語りかけてきてたから、それでいいし」

アストロの独特な擬音について

大月「伊集院さんなんかは当時読んでて、この『音』は『読んで』ました?」
伊「これねぇ、たぶん僕の頭の中では、多分この音とは全然関係ない音が鳴ってたと思いますよ。要するに水島新司がカキーンなのにも関わらず、常識的なカキーンとは全く違う音がしてるんだ、っていう理解だけ(があるのと同じ)で。あの、ピッチャーが投げる時にグワシャバアとか書いてあるんですけど、グワシャバアに似た音は鳴ってないと思うんですよ。尋常じゃない音が超人だから鳴るんだ、っていうこと?」
(中略)
大月「これは発音しちゃいけないんだね、そういう意味ではね」
(中略)
伊「今もう大人になっちゃうと鳴らせなくなっちゃうのが悔しいですね。常識が出来てるから」
大月「子供だと、鳴ってるんだね」
伊「鳴ってるんです」
大月「異様な音がね」

番組終盤にさしかかって

伊「あとやっぱり。例えば5メートル飛ぶのも、これくらいって言ったらいいのか、その、……(球場を空から描いた見開き構図を見せて)飛ぶのも? たぶん同じだと思うんですよ俺、実際。実際ね。5メートルだったら科学的だとか、っていうナニ? 人間の範囲を超えたら、これくらい飛んでくれてる方が、子供には『飛んだ〜〜〜!』っていう感じするんですよ」
いしかわ「この漫画ってさ、ぜんぶ比喩なんだよね。『たくさん飛んだ』っていうのを表すために千メートル飛ばしちゃうんだよね。だからこの漫画の存在自体が比喩なわけでさ。昔はそれを、ほんとに冷静に比喩として描いてたんだけど」
(中略)
岡田「(本宮ひろ志の『群龍伝』では4メートルのジャンプで超人的で凄いということになっていたけど)アストロ球団になってきたら、やっぱそれよりスゴイものをビジュアルで見せなきゃいけないから……」
伊「で、なんかそこの所に筋肉の説明とかがあると、照れ隠しみたいに見えるんですよ。何を照れてるんだよって。こっちはヘリコプターに届いてるんだぜ。飛んだ〜〜〜やっぱ凄いわあっていうのが。言い訳はしないよっていう。全力で行きますよっていう。これと紙一重の駄作はすーごい出てくると思うんですよ、これからも。(アストロ球団のような作品は)作ろうと思えば作れるけど、今はもう作れないんじゃないかなぁ、誰かが『それやめた方がいいですよ』とか」
大月「今、だって大人の漫画家で、これだけ本気で、バカって言うのは申し訳ないけど、子供のためにこれをやれるっていう人いないでしょ?」
夏目「できないっ」
伊「子供だましって言葉は悪いけど、だまされる方は、うれっしくって」
大月「そうそう、大人が本気でだますんだもん」

アストロ球団 (第1巻)アストロ球団 (第1巻)
遠崎 史朗

太田出版 1999-03
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools