イチ執筆者による「ユリイカ 総特集*荒木飛呂彦」の全体的な感想
買って読んだ人向けの、各記事に対する私見的感想です。
自分の記事(イズミノウユキ名義)と、ジョジョ立ちとスタンド辞典に関してはコメント無しでいきます。
(でも自分の記事の誤字訂正はちょっとだけあります。→近況とエラッタ - ピアノ・ファイア)
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男たちの奇妙な愛情 !? / 荒木飛呂彦×斎藤環×金田淳子
とりあえず、荒木先生の発言はどれも面白かったですよと。
自分は車田正美の直系だけど、BLEACHなんかは同人(という傍系)を経てから車田に戻ってるような感じだと分析するあたりとか、いいですよね。とにかくこの人は着眼点も鋭いし分析力も凄い。本人自身が評論家ハダシなクリエイターだとぼくは思ってます。講演の内容をレポートにして載せるだけでも価値があったんじゃないかなぁと思うくらい。
後半の腐女子トークの問題については色々考えてみましたが、金田さんは喋り方さえ慎ましく謙虚に(自分語りを一般論のように語らない、という態度も含めて)していればファンにも叩かれなかったんじゃないか、という結論に至りました。
荒木先生はいたって冷静なわけだし、例えば、それこそよしながふみあたりの、対談慣れした人が節度を守りながら討論するなら、作者相手に濃い腐女子トークを仮にしていたとしても、「先生に何を吹き込んでるんだ!」的な反発は無かったように思えます。
だから、喋ってる内容の是非よりもむしろ、いわゆる「かしましい」感じの悪い印象をユリイカ読者に与えていることが、バッシングされるスキを作っているのではないでしょうか。
あとこれは一般論として、アーティストの対談相手として「熱心なファン」っていうのは相性が良くないと思いました。相手は天才なんだから、同レベルの才能を持つ「同業者」を連れてくるのがベストだったと思います。天才と対等に話ができるのは、同じ天才か、よっぽどの秀才くらいだろうと思います。野球でいうと、イチローと対談させるなら松井を連れてきてやっと会話が成り立つのだ、くらいの話かもしれません。
そういう同業者の人でない場合は、討論形式ではなく「聞き手」に徹するべきかもしれない……というのは、ぼく自身も何度かインタビューや対談の企画をやったことがあるので(同人誌でですけど)ちょっと教訓として記憶しておこうかなと思うことでした。
荒木作品が世界最高の学術誌の表紙を飾るまで / 瀬藤光利
楽屋裏のお話なので、特に感想は無し。
『ジョジョ』 だってインフレする! / 元長柾木
パワーインフレじゃなくてルールインフレ、っていう着眼点を広めるのは良いと思います。
車田の場合はパワーインフレというか、「演出インフレ」という別のベクトルのような気もしますけどね。
あと個人的には、「泥仕合のインフレ」っていうのも見逃せないと思います。パワーに変化は無いしルール自体が複雑化してもいないんだけど、丁々発止とリソースの奪い合いをしている内にお互いドロドロに疲れ果てちゃう、あの泥沼感の面白さですね。それこそ『バビル2世』に顕著な要素です。
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ユーロ・ロックについて / 宇波拓
ロック評論と漫画評論ってあんまり相性良くないと思うんです、アプローチ的に。
足や靴には裏がある / 草森紳一
他の人の感想を読んでいてもみんなから言われてたことですが、ちょっと何を論じているのかが察しにくい記事。
ただ、執筆者が悪いというよりは、こういう所に「漫画の細部に注目しながら語るという行為に付きまとう限界と問題点」が示されていると思いますし、そういう意味では貴重なサンプルなのかもしれない、と漫画読みの立場からは感じました。
基本的にぼくは、漫画語りというのは「実際に本をめくって指さしながら、口頭で語る」という形式が最高だと考えていますから、その漫画語りを「紙媒体で実行することの困難さ」というのは評論家にとっては抜き差しならぬ難問であって、常に追究しなければいけないと意識しています。
紙媒体における「漫画語りの方法」には、まだ正解も王道も無いんですよ。「こう書けばいい」っていうのはまだ無いですよね。それを強く実感しました。
奇跡について / 杉田俊介
ちと語り口の取っつきにくさもあったので100%読み解けた自信は無いのですが、今回で最も「作品のテーマ」という角度から語れている記事だと思います。これからもSBRを読むフレームワークのひとつになってくれるでしょう。
あと個人的に、「自立と自己犠牲」というテーマには『トップをねらえ!』および『トップをねらえ2!』で語られていたもの(自分で自分を守れない人間に他人を守る資格は無く、ただの自己犠牲は肯定されない)と共通するものを感じます。
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世界と繋がる、もうひとつの冴えたやり方 / 宮昌太朗
こちらも何について語ろうとしているのが良くわからずじまい。
法外なもの、不均衡なもの、否定的なもの / 加藤幹郎
映画評論家で漫画論もやる人みたいなのでちょっと期待していたんですが、少しクエスチョンマークが浮かぶ所もありました。
微妙にぼくの記事と論点的に被ってる所もある(荒木割りや、西洋美術に言及するあたり)のでコメントしづらいってのもありますね。これはノーコメントにして、読者の判断に委ねた方が良さそうです。
Stand and distortion / 暮沢剛巳
美術批評の人らしいですが、淡々と既存のアーティストの技法と荒木の技法を照応させていく作業や、オタク論壇的な概念に荒木飛呂彦を当てはめてマッピングする作業で占められるという……、他の記事が自己主張の強いものばかりなので、我の無さがかえって目立っているくらいです。慎ましい、ソツの無い記事ですね。
荒木先生の「マンガ・マッピング・チャート」が紙媒体に載ったのは良かったと思います。ネット以外でも参照できるという、資料価値が出ますからね。
あと、彫刻における「コントラポスト」という概念は初めて知りました。もし知っていたら、自分の記事も違う書き方にしてたろうと思うのでちょっと無知を恥じる所です。「イタリア彫刻のねじりの法則」っていうのは荒木先生の独自解釈じゃなくて、割と既に研究されつくされた分野だったみたいですね。
(その上で、荒木先生は独自視点で解釈してるとは思いますが。)
加速する肉体の氾濫/反乱 / 小澤英実
要点を絞れば、以下のふたつの視点提供が特筆されるべき個所だと思われます。
ビューティフル・ワールド! / 吉田アミ
最近の荒木先生が講演で言っていた「テーマは隠せ!」を踏まえて読むともっと面白い文章。
『ストーンオーシャン』は「神もいるし、運命もあるけど、やっぱり人間賛歌はやめない。作者である自分がキャラの行動をコントロールしようとは思わなかったように、神も人間をコントロールしようとはしないんだ」という作者のメッセージを誠実に読み解いてると思います。
杉田さんのとはまた違う意味で「良い深読み」をしているタイプの記事でした。
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