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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

明日はプリキュア

 以前、『ふたりはプリキュア』と国産アニメの「愛と戦争の歴史」について考える試みという記事を書いたが、今度は日本のヒーロー史においてプリキュアがどういう位置に居るのかを整理してみたい。

  • 戦隊ヒーローの系譜

 さて、プリキュアは「セラムン」と「どれみ」との関連性が言及されることもあるようですが、ヒーローものとして見た場合、プリキュアはいずれとも異なるレールの上を走っているように見えます。
 なぜかといえば、セラムンもどれみも、少女向け作品に「戦隊もの」の要素を取り入れることで成功したケースと言えるからです。
 話はズレますが、女性受けするアニメ作品は「戦隊もの」の影響下にあることが多い傾向があるようで、ちょっと思い付くだけでもトルーパー、ガンダムW、ダグオンなどがそう。思いっきり遡ってしまえば、サイボーグ009戦隊ものとしてこの中に入れていいかもしれません。石ノ森先生は偉大です。


 プリキュアセラムンとどれみとの差別化を図る為に、あえて戦隊もののレールから外れることを選んでいます。それはただ頭数の問題だけではなく、武器やアイテムを使用しないことや、そしてドラマ性にも表れています。

  • 変身ヒーローの系譜

 石ノ森章太郎は戦隊ヒーローだけでなく、変身ヒーローを産み出してもいます。代表的なのが仮面ライダーであり、メタルダーでありイナズマンです。
 この場合、プリキュアのモデルとして考えられるのは当然初代ライダーでしょう──もっとも、一号二号の二人ライダー制は番組の撮影上の事故が原因で、石ノ森原作とは無関係なのですが。
 プリキュア達の最初の敵でありながら、早々に退場した敵幹部が平成ライダーを思わせる個人主義者であったこと(→参考)までも考慮すると、この「二人ライダー制への回帰」は意味深さを増すでしょう。
 セラムンやどれみが少女向け作品に戦隊もの要素を取り入れたように、プリキュア仮面ライダーの要素を少女向け作品に取り入れているとは言えないでしょうか。

 良く指摘されることですが、プリキュアのストーリー展開は非常に早く、一話ごとに必ずドラマチックな要素が詰め込まれています。要するに、まったりと敵と戦い、倒した後に「日常」を取り戻すような「マンネリズム」がほぼ無いのです。
 プリキュアのストーリーを振り返ると、驚くべきことに「敵を倒すごとにヒロイン達の日常に変化が訪れている」という事実を我々は発見するでしょう(更には「敵との戦い方が毎回異なっている」ということにも驚かされるだろう。参考に「とどめのさし方リスト」を付記した)。
 エピソードが1話毎に切断されて繰り返されるのではなく、不断の連続であるのがプリキュアの特徴です。それは、導入の台詞が「わたし美墨なぎさ14歳、中2★」という自己紹介ではなく「あの巨大な男も石を残して消えた。今度こそ全てが終わったと思いたいけど……」という回想シーンを必要としていることからも窺えます。


 プリキュア同士の関係構築を主軸とした第8話までを、仮に「第一部」としましょう。第9話以降は、プリキュア達が日常生活を安穏に過ごすことの困難さ(変身アイテムを大人に見咎められ、隣人が戦いに巻き込まれ、一般人に変身後の姿を見られ……)がメインに描かれており、これを「第二部」と呼ぶことにします。
 この第二部以降のドラマこそがつまり「変身ヒーローの要素」なのだと言ってもいいでしょう。
 バトルシーンも少しずつ悲壮さを増している。また、プリキュア達がお互いの実名とプリキュア名を呼び分けているのも、変身前/変身後の二面性や分裂を良く表していると言えます(特撮ヒーローの場合「普段は不透明のヘルメットが半透明になって素顔が透けて見える」という演出が「変身前の人格」を表現する為に活用される。ヘルメットを被らないプリキュアの場合は、呼び名を使い分けることで「変身前の人格」を描いているのではないだろうか?)。
 その要素は第11話から加速度的に上昇しており──何度も言ってることの繰り返しですが──これからのストーリー展開に俄然注目する必要があるわけです。*1

  • なぜストーリー展開が早いのか

 理由としては、視聴者に飽きられるのが怖い、一年打ち切りが怖い、シリーズディレクターの「やりたいこと」を早くやりたくて焦っている、などの理由が考えられるでしょう。基盤となるフォーマットの積み重ねが微弱な為、単なる「記号的なシチュエーションの組み合わせではないか」という非難を逃れるのは今の所難しいようにも思えます。
 プリキュア仮面ライダーのドラマ性を受け継いでいるとは書きましたが、その往年の特撮番組自体は、基本的にマンネリズムの繰り返しでできています。ドラマが大きく進むのはシリーズ終盤においてでしょう。
 だから『ふたりはプリキュア』という作品は、常に物語のクライマックスにあるような、異様なテンションを持った番組でもあります。このテンションを維持できるのか、それとも空回りするのかという点も観賞していく上で重要です。

  • 考察漏れ──今後の作品論に向けて
    1. 変身ヒーローの系譜は石ノ森作品だけでは語れない。特に永井豪作品の存在が大きい。そもそも変身ヒーローの女性化だって永井豪お家芸なのだから、キューティハニーけっこう仮面を無視できない
    2. バロム1は原作も特撮も詳しくないのでなんとも言えない。まぁ「プリキュア=バロム1」説は既に出尽くしているから、いいか
    3. あと誰か、魔物ハンター妖子や淫獣聖戦あたりのエロアニメと絡めて語ってください。ほのかのおばあちゃんが先代プリキュアを仄めかしているのは、明らかに魔物ハンター妖子の影響だと思う

*1:特に第2〜5話あたりを「脳内補完」しながら観ていた視聴の仕方からは、大きく切り替えていきたい